松尾ゆり

わくわくレポート141号 2011年9月

原発に反対した前福島県知事

 猛暑のあとに台風と、すさまじい9月でしたが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。東日本大震災から半年、震災からの復興はまだまだ先が見えません。政府の対応の鈍さに憤りを感じます。

 先日、前福島県知事・佐藤栄佐久氏の講演を聞く機会がありました。福島原発事故では国が県・市町村を軽視し、情報公開や避難の遅れにつながったと指摘。また「住民の立場で動くと必ず国と対立してきた。国→県→市町村→住民というベクトルを逆に変えたい」「効率優先で過疎地は置き去り。政治は経済ではない。住民の生活から出発しなくては」と地方自治を熱く語られました。復興を口実とする大増税も原発も、ストップするために、地域から政治を変えていきたいと思います。

震災から半年 ~福島訪問記~

 福島では多くの方々が、震災だけでなく原発のために家に戻れなかったり、あるいは放射線量の高いところで暮らさざるをえない状況です。特に子どもたちの健康が脅かされています。福島県を訪問、また群馬県に避難された方々を訪ねました。そのお話の一部を紹介します。

福島市で ~放射能とむきあって~

 「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」(略称「子ども福島」)を福島市に訪ねました。とても気になっていたのは、避難地域に指定されていないが放射線量の高い地域(福島市、郡山市など)の子どもを避難させるべきではないかということです。何が避難の障害になっているのでしょう?

 「理由はいろいろあるのですが、まず心理的な面、考え方。仕事や学校がある。」「もちろん家族の反対もあります。長崎大学・山下俊一教授の講演で『年間100ミリシーベルト以下は大丈夫』(!)と思わされてしまったことが大きい」そうです。

 まず、子どもを中心に避難できるよう支援の制度を整えることが必要です。今の状況では子どもたちが人質にとられているようです。そのための条例整備などを県や市に求めていくことも考えておられるとのことでした。また、放射能をいかにとりこまないか、とあわせ「すでにとりこんでしまった放射能を排出するためには」という情報発信にも努力しているそうです。

 市内の商店街では、本屋さんに「新しい放射能汚染分布図あります」と貼り紙があったり、「放射能を体から出す」というデトックス食品が売られていたり。日常の中で放射能と向き合わざるを得ない困難さ、苦しさは想像を超えています。

群馬で ~帰りたくても放射能が…~

 群馬県にある杉並区の施設「コニファーいわびつ」などには南相馬市民の方々が避難しておられました。お話しした3世帯は小中学生のお子さんがおり、南相馬市内には帰らず、避難先の群馬県で町営住宅に入るといいます。第一の理由はもちろん放射能。

 

 「市は帰ってこいというけど、大丈夫とは思えない」「東電も国も色々いうけど、うそばっかりで信用できない」と口々に。また、やっと群馬の学校になれてきて友達もできたので、続けて通わせたいとも。

 「市は学校などを除染するというが、学校だけやってもだめ。自宅は庭も畑も広くて自分ではとても除染しきれない。」今マスコミ等ではしきりに「除染して住民が戻れるように」と言われますが、専門家からは除染には限界があると指摘されています。原発が安定していない状態ではいくら除染を強調しても、保護者にとってはかえって不安になるばかり。「学校が再開されたとしても1年ぐらいは安全か様子をみてみないと帰れない」という言葉が正直な気持ちだと思いました。

いろいろ問題ありそう 杉並区の「基本構想」

 昨年就任した田中区長のもとで区の新しい「基本構想」の検討が進められています。今後10年の区政の方針を決める大切な計画です。審議は、骨子をまとめるところまできました。公表されている資料をみるとクビをかしげることが多いのです。

「福祉のまち」はどこへ消えた?

 かつて杉並区の基本構想は「みどり豊かな福祉と文化のまち」をかかげていました。しかし前区長時代には「区民が創る『みどりの都市』杉並」となり、福祉と文化はどこかへ消えました。今回は?と見れば「福祉」はついでのように、片隅に小さな字で…。最も大文字で書いてほしいのに。

 それに、「協働」「支え合い」が目立ちます。自治体の仕事のカナメは、福祉サービスを届けること。基本構想は行政の計画なのですから、区民まかせにしないで行政の責任を第一に明記してほしいものです。

これ以上の開発が必要なのか

 「杉並のまちづくり…埋没への懸念」とあります。「埋没」? 新宿や渋谷と比べて、でしょうか。都心と違い、各駅周辺が住宅地とマッチして落ち着いたいい味出している所が杉並の良さだと思うのですが。そして、抽象的な項目の羅列の中でなぜか「荻窪駅周辺まちづくり」だけが具体的にあげられています。開発を進めてトクするのは誰でしょうか。

自然環境を守るには

 杉並区内では大規模なマンション開発などが問題になっています。みどりを守るには、大規模開発の規制、建物の高さ制限や景観保護なども必要ですが、述べられていません。

●意見を出しましょう
11月には基本構想についての意見募集が行われます。
区民意見をたくさん寄せて、少しでもまっとうな基本構想にしていきましょう。

税と社会保障の一体改革 福祉はどこへ

 野田内閣が発足、財務相当時から増税推進派の野田氏。復興増税、そして消費税増税の議論がいっきに進みそうで心配です。社会保障との一体改革といいますが、社会保障の見直しは福祉の削減へ、そして増税とダブルパンチになることは目に見えています。

 また、来年度は介護保険制度の改定の年ですが、国は、介護予防サービスの制度変更(「介護予防・日常生活支援サービス」創設)など、ますます介護度の低い人を切り捨て、ますます事業者に丸投げ、という方向へ進みそう。大手介護サービス企業は介護保険外サービスに手を広げ始めています。本来高齢者福祉として保障すべきサービスが儲けの対象になってしまいます。

杉並の歴史教科書採択ついに決着!

 8月10日、教育委員会で教科書採択が行われ、中学校社会科はすべて帝国書院版と決定。山田前区長が強力に推進した「つくる会」教科書(従来の教科書を「自虐的」と批判した人たちがつくった侵略戦争肯定の教科書)の使用をやめることが決まりました。

 PTA会長経験者の二人の教育委員が「賛否はっきりわかれている教科書をあえて使うことはない」「教員も使いにくいといっている」など反対意見。また前回は「つくる会」教科書を支持した井出教育長も今回は帝国書院を推薦しました。

 杉並では「つくる会」を排除することができましたが、他地域では新たに大田区、武蔵村山市、東大阪市、藤沢市などで採択されました。戦争の過ちを冷静に振り返ることのできない教科書は、今後の日本にとって大きな懸念です。

松尾ゆり

緑豊かな福島の大地を返せ

 8月12日、猛暑の中「福島県農林漁業者総決起集会」が開かれました。日比谷野音いっぱい約3000人が参加。原発事故のおかげでめちゃくちゃにされた大地と海。怒りと暑さでボルテージは上がる一方。

 集会では、農協の方々の訴え(原発への怒りはもちろん、「事故収束の見込みも立たないのに、いまだにTPP参加などと言っているのは許せない!」)が続き、その後国会議員があいさつ。

 東電本社前を通る福島県漁連のデモ 特に民主党・渡部恒三氏にはかなりヤジがひどく、何度も「ちょっと聞いてください」とよびかけながらのスピーチでした。「新しい内閣でしっかりやります」には失笑が。渡部議員は自民党時代からの原発推進の中心人物だし。もちろん、自民党へのヤジもかなりのもの。集会後、デモが行われました。東電前では「ここが東電か!(投げる)石はないか??」という声も。