松尾ゆり
わくわくの日々

杉並区施設再編は「財政負担を軽減」は本当?

●2014-03-30

 杉並区立施設再編計画、児童館や科学館の廃止などについて、「お金がないから大変なのでしょう?」とよくきかれますので、杉並区の財政を検証してみました。

(1) 施設再編計画の試算

 今回の「施設再編計画」でどのくらい節約になるかというと、「施設面積を1割削減すると900億円の削減になる」という試算がのっています。あくまで機械的に1割で計算したものなので、具体的な施設の統廃合は無視しています。30年間で割ると1年30億の削減ということになります。これが多いか少ないか、ということもありますが、それ以上に問題なのは、金銭的な面だけで評価できないことです。

 建物・事業を削減すれば費用の削減にもつながるのはあたりまえですが、それぞれ福祉や教育など目的があって保有している土地・建物ですので、削減は当然区民サービスの低下でもあります。バランスシートで考えればわかりますが、特に土地に関しては、杉並区のように地価の高いところでは売却して一時的に現金化するより、保有し活用することのほうが価値が高いといえるでしょう。

 さて、今回の「第一次プラン」に限定すると140億円の効果があると試算されています。しかし、この計算は相当怪しいものです。計画にかかれている財政効果は「売ったとすれば」○億円、など最大効果の場合であって、必ずしもその通り実現するわけではありません。おまけに、たとえば杉一小の10階建て複合化のように、個々の施設を改築・改修する場合と比べてよけいな工費がかかる可能性もあります。「減額できる場合」は計上されていますが「増額される場合」は計上されていないので、実際は140億円よりもっと効果が小さいはずです。

(2) 膨張する予算

 さて、杉並区の予算は厳しいか?の点検です。

予算総額は2009年度を底に増えています。

2009~2014年度(当初予算規模)

一般会計は、1427億、1513億、1466億、1547億、1559億、1612億
一般会計+特別会計は、2329億、2415億、2414億、2525億、2565億、2652億

と増えています。膨張してるんですから、困っていませんね。

 歳入をみても、特に困ったようすは見えません。最も重要な特別区税(住民税、たばこ税、軽自動車税)は毎年600億円前後で推移しており、

2009~2012年度(最新)の決算では、621億、586億、582億、599億 となっています。

 同じく大きな歳入項目である「特別区財政交付金」は、やはり決算で、2009年度317億円を底に、2012年度379億円まで盛り返しています(同交付金は特別区に特有の制度で、本来市町村が担う事務を都が担っていることにより、都と区の間で収入の分配をすることと、23区相互の財政を均等化する2つの目的があります。企業の業績、つまり景気の動向に大きく左右されます)。

 「施設再編計画」添付の資料(国立社会保障・人口問題研究所試算)では急速な高齢化(2040年に高齢者人口が約4割)とそれによる税収減が前提になっていますが、今のところ税収が急激にマイナスになっているということはありません。なお、人口推計については、区が独自に作成した資料があり、そちらでは2032年まで高齢者人口が20%前後で推移する推計になっています。

【参考】「杉並区の将来人口推計について」≫

(3) 区債と基金:23区平均に近づく

 区債は区の借金ですが、山田前区長時代にとにかく「借金をしない。借金を減らす」方針で、区債を前倒しで返したりしてきた結果、2011年度には152億まで残高が減りました。しかし、田中区長(2010年就任)になってから、起債を行う方針に転換。区の資料によれば、23区の平均にぐぐっと近づいてきているのが昨今です。

 基金は区の貯金ですが、上記の借金返済のため、基金を減らし、やはり山田政権末期に300億円台にまで下がりました。2014年度当初では311億円となっています。

 区債と基金は両方とも23区平均よりかなり低い水準だったのですが、最近は23区平均なみに近づいています。ふつうの区になったといえるでしょう。

(4) 再び「貯金」が目標に!

 忘れもしない、山田前区長提案の「減税自治体構想」は田中区長により廃止されました。というか、廃止されたように見えました。しかし、減税自治体構想は廃止されても「貯金」自治体構想として生きていたことがわかりました。違いはその結果、減税を行うのか行わないのか、だけです。

 区の基本構想に基づく「実行計画」には行革方針があり、そこには「『財政のダム』の再構築」が明記されています。山田区長が繰り返し述べていた言葉です。区の「行政経営懇談会」というものがあり、行革について学識経験者を呼んで区の人たちが意見をききます。そこでは、役所側が基金を500億円ぐらいまで貯めたいと述べています。委員(学者)からは「予算の単年度主義との整合性は?税を蓄えることをどこまで許容しうるか?」という疑問も投げられています(杉並区行政経営懇談会第3回議事録より)。減税自治体構想に対して、各方面から全く同じ疑問がでていたことを役所の人たちは忘れたはずはありません。

 というわけで、杉並区はお金に困っていないことがわかりました。そして、行政はいま再び「貯金」を目標としています。施設再編計画の目的は「貯金」なのです。貯金が必要ないとはいいませんが、行政サービスを削減してまで貯金するのは本末転倒です(お金が余ったり、区役所の事業を削減するなら「減税」するほうがよっぽど筋が通っているともいえます)。資金不足に苦しむ地方自治体も多い中、お金に困らない杉並区役所はほかにいくらでもやることがあるはずでしょう。